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中米旅行報告 その三 キーカーカーの休日


長く旅してるとリフレッシュが必要になる時がある。
疲れきってしまい、せっかくの旅行が楽しめなくなってしまう。
言葉のあまり通じない国での毎日は、簡単に“面白い”と“しんどい”が交代する。
北方の寂しい国々を歩き続けている時や、ビジネスライクで楽しみの少ない工業都市ばかり回っているとそういう精神状態に陥る。
でも、対策は簡単。
陽光輝く南の国へ行ってしまえば良い。

……MEXICOは、結構最初の方で疲れてしまって、方針変更してカリブ海の島キーカーカーに逃げ込んだ。
本当は旅の終わり近くにカンクンかコスメル島辺りで、ダイビングしながらゆっくりしようと思ってたんだけど、
ガイドブック見てるうちに、“キーカーカーも捨て難い”って気がしてきて、
カンクン止め!旅の終わりもなし!って決めてキーカーカーへと流れて行った。
旅行という“休暇”の最中に“休日”とはおかしな表現だけど、そういう意味でキーカーカーの日々は“休日”だった。

キーカーカーには、世界第二のバリアリーフがある。
もちろん世界第一はオーストラリアのグレートバリアリーフ。
それには及ばないけど、延々250Kmに及ぶリーフ(珊瑚礁)が沖合い30Km辺りに伸び、その内側に浅瀬と美しい島々が点在している。
ユカタン半島の南端辺を細長い半島が陸とバリアリーフに並行して南下し、その先に途切れながら島々が点在している。

いずれも、美しい白砂の海岸を持つ、幅百メートル標高数メートル程度の、まさに絵に描いたような“南の島”。
貧乏旅行者向きのリゾートだから、モルディブなんかには及ばないけど、石垣島周辺の離島程度には快適。
そして、ここの自然は驚嘆に値する。
結構ダイビング歴は長いし、訪れた国々・地方も多いから、最近、何処へ行っても驚く事はそんなに沢山ない。
でも、キーカーカーは沢山驚いた。
初めての事がいっぱいあった。

その一
……サメとアカエイの群れの中で泳いだ事、触った事。

永年潜ってて鮮烈に残ってるのは、大体、素潜りの時の記憶。
ひとつは、マンタ(オニイトマキエイ)が、1メートルぐらいまで近付いて来た事。
15年も昔の話になる。
西表近くの黒島っていう珊瑚礁の島で、二尾のマンタの間に入って泳いだ。
もうひとつは、モルディブでウミガメを追いかけた記憶。
かなり深くまで追っていって両手の間に来るまで追いついたのだけど、
水中に引きずり込まれそうな気がして断念して浮上した。
(息、続きそうになかったもの。)

今回も、スクーバより素潜りの方が印象的だった。
水深数メートルの浅瀬(平らな白砂の水底)にボートを浮かべて、水中に入った途端、
小犬の群れが駆け寄ってくるように、水中をひらひらと元気良く近づいてくる沢山の小さな黒い影が見えた。
なんだ?と思って見ていると、あっという間にまわりを囲まれて、何とそれが 40〜50センチ のアカエイ達だ。
ガイドの兄ちゃんはエイのひれを下から両手で掴んで、キスするみたいに顔を寄せている。

エイ達は本当に小犬と同じで右から左から下からじゃれる様に舞い込んでくる。
尾の付け根には毒腺付の棘があるというのに、太股の間を突き刺しそうにして潜り抜けて行く。

グランドケイマン(西インド諸島)に“スティングレイシティー”っていう有名なスポットがあって、
そこではアカエイが手のひらの真上を泳ぎ過ぎながら餌を吸い込んで行くのだけど、
キーカーカーの話は聞いた事がなかった。
スクーバダイビングについては色々読んでたんだけど、素潜りがこんなに楽しいとは予想もしていなかった。

エイ達に翻弄されていたら、いつの間にかもう少し大きなのが紛れ込んでいて、
ガイドの兄ちゃんは、今度はそいつを押さえつけてる。
1メーター20センチぐらいのサメだ。
目も口も小さくて、正面から見ると情けないオッサン顔。
サメに触ったのは多分初めてだ。
でも、もうひとつ感動しない。
迫力無いサメ!!

その二
……唇の分厚い1m以上あるハタ。

こいつも人間になれていて、すぐ近くまで寄ってくる。
でも、臆病な奴でこっちから近づいてくと遠巻きにぐるぐる旋回する。
そのくせ後ろからはどんどん接近して来る。

潜っているうちに、フィン(足ひれ)で誰か蹴った!と思って振り返ると、このドデカイハタだ。
(重い奴だからそれぐらいの反動がある。)
蹴られたというのに何食わぬ顔であらぬ方向を見つめてゆらゆらと泳いでる。
(“ん?なんかあった?蹴られた奴がいるって?……ボクじゃないよ。知らないよ。”って)

その三。

……見た事のない魚たち。

太平洋・インド洋以外で潜るのは初めてだったのに、そんな事気が付いてなかった。
アジア近辺で見られる魚は大体見てしまったから、新しい魚を見る楽しみを忘れてた。
でも、見た事無い奴等がいる!いる!
まず、フレンチエンジェルフィッシュとグレイエンジェルフィッシュ。
形はキンチャクダイで、ユーゼン(魚の名前。要するに友禅模様の魚)みたいな模様。
(馬から落ちた上に落馬する文章だな。)

クィーンエンジェルフィッシュ。
不細工なサザナミヤッコ!と思って良く見たら違うみたい。
帰ってから調べたらカリブ海特産の魚だ。
でも、化粧がまるっきりおミズじゃん。
図鑑には“カリブ海で人気のある魚”て書いてあるぞ。
趣味悪いな。

ブルー・ストライプ・グラントの群。
黄色地に細長いブルーの波線が美しい流線形の奴。
ヨスジフエダイだと思ってて(ブルーと黄色が逆だ!)、日本に帰ってからスライド整理してて気が付いた。
ヨスジフエダイよりシックだ。

マダラトビエイ、……奇麗な菱形をしてて、紺地に白の斑点を規則正しく散らしたお洒落な奴。
昔から見たいと思ってたけどこんな所で遭えるとは思ってもみなかった。
ここまでは、ダイビングと魚達。

地上で一番驚いたのは、蜂鳥(ハチドリ)。
道沿いのお家の植え込みにピンク色のきれいな花が沢山開いてて、
奇麗だな、て立ち止まって見てたらその花の所に鳥がやって来て、すう、と静止して
首を前に傾けストローの様な長い嘴を花の奥に伸ばして蜜を吸ってる。

当り前の話だけど、テレビで見たのと全く同じで、
一つの花の蜜を吸いおわると次の花に移って静止して嘴を伸ばし、花から花へと蝶の様に飛び回る。
心の中で“わあ!わあ!”って叫びながら呆然と口を開けて見とれていたのだけれど、
現地の人たちには普通の事なんだよな。
自分ん家の庭にハチドリがやって来たら、絶対大騒ぎして電話掛けまくりだと思うけどな、……。

蜂鳥もそうだけど、鳥は随分と沢山いる。
海原の上を漂う昼食時のボートにカモメがやって来て、投げ上げた魚を咥えてくのは日本の島でもお馴染み。
日本なんかで見ない光景は巨大なペリカン達。
海辺を飛び過ぎ、マングローブの林を揺らして騒いでたりする。
早朝に海岸を歩いてると、海辺のテーブルの間でその巨大なペリカンどもが舞い下り舞い上がりしている。
テーブルについた女性が餌をやっているらしく、
彼女が何か投げるたびに、逃げるようにしてバサバサと舞い上がり、少し離れた場所に舞い下りてからドタドタ下品に近付く。
羽を広げたところは、人間なんかより大きい。
5、6羽が女性の前方の空間を舞っている光景はなかなかの迫力だ。

午後には、プテラドノンにそっくりな、三角形の尖がった翼を持つ真っ黒の鳥が上空を悠然と滑空している。
思わず格好つけて上空を指差し、“あれはなんだ!”って叫びそうになる。
アメリカ人の観光客なんか“Dinosaur!”って口走ってるもんね。
……っていう具合に驚きの毎日だったけど、写真見ないと驚きは伝わらないかな?

最後に、サッカー少年達の話を書いておこう。
島にサッカーコートがあって、毎日夕方からボールが見えなくなるまで島の少年達がサッカーをしている。
コートのサイズはフルにあるけど、雑草が生えてて、でこぼこのひどいコート。
少年達も年齢がまちまちで(小さな島だから同年齢の人間なんて大していない)
サッカーシューズをはいてるのは一人ぐらい。
裸足でやってる奴もいる。
でも、これがレベル高い。(下手くそもいるけど。)

コーチもいないのにちゃんとセットプレーしたりヒールパスで繋いだりしてやがる。
休みの日には大人達まで車で乗り付けてきて観戦してる。
それぐらい面白い。
ペルーもそうだったけど、中南米はサッカーに対する情熱が違う。


ところで、そもそも旅の始めの方で疲れてしまった原因は何かというと、旅が唯の観光旅行になってた事。
もともと、昔の日本の田舎みたいな国が好きで、
駄菓子屋風のお店やバンガロー並の宿で、店のおっちゃんやおばちゃんとクダクダと話したり、
ガタガタ道をオンボロバスでゴォ〜ッと走ってくのが好きなのに、
MEXICOという国はアメリカからの観光客が多くて、同じように旅していると普通の観光旅行になってしまう。

“地球の歩き方MEXICO編”もそんな旅を推奨してて、
気付かないままそれに従って歩いてたものだから全然楽しくなくなってきた。
都市間の移動に使うバスは日本と変わらない高級バスで、冷房がガンガン効いてて、
しかも暑いからといって昼間っからカーテン閉めてヴィデオで映画を上映してる。
観光地のメインストリートは観光客街になってて、
観光客向けのレストランが軒を並べ、
両替屋が派手な看板で客を寄せ(本当は裏手の銀行の方がレートが良い)、
ちゃらちゃらした服を着た欧米の観光客がその辺りの道に溢れてる。
全然“旅”って気分じゃない。

でも、キーカーカーで“海辺のバンガロー”風情の宿でゆっくりして、
“超”遅れた国グァテマラに入ると、すっかり旅人に戻った。
土産物屋のオニイチャン,オネエチャン,オバチャンと値切り交渉と世間話をし、
薄暗いアーケードの市場を奥の方まで入って行き、
バスターミナル脇の屋台で飯を食い(旨いやんけ!と言ってもうひとつもらい)、
とうとう旅の終わりには、“細かいお金ないや!”と言って
貧乏そうな屋台のおじちゃんに勘定をまけて貰う始末。
(本当になかったんだよ!)
やっぱ、旅はこうでなくっちゃね!

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